山川の技

厳選した材料

およそ100日で人の背丈を越えるほど成長が早い麻ですが、収穫した麻が繊維になるまでには「一反百人手間」といわれるほど多くの時間と労力を必要とします。

鈴緒の材料として使用するのは、麻の茎の表皮部分。その刈り取りから精製までには多くの工程を経ます。山川では厳選した良質の本麻を使用しています。色つやの美しさはもちろんのこと、そのしなやかさで経年による劣化が少ないことが特徴です。

また、鈴緒に使う本坪鈴は京都の伝統技術を受け継ぐ錺師の手仕事によるもの。そして、桐枠も同じく京都の木工技術を駆使して木工職人が手掛けたものです。

ひとつの製品にも、多くの職人技術が込められているのです。

麻について

麻とは、アサ科の大麻を指します。
天然繊維のなかでももっとも強靱なこの素材は、かつて国内各地で盛んに栽培されていましたが、昭和23年に施行された大麻取締法によって栽培が許可制となってからは栃木県や長野県、群馬県などの限られた地域だけで栽培が続けられるのみとなっています。

戦後、生産者の方々を中心として品種改良がおこなわれ、現在、栃木県では麻薬成分をほとんど含まない産業用大麻品種「とちぎしろ」が栽培されています。

現在、大麻の生産免許保持者は全国でも数十人。廉価な外国産の麻の流入や、化学繊維の発展によって、国産大麻の生産は減少の一途を辿っています。

創業以来、神社仏閣用麻製品の製造に携わってきた山川では、生産者の方々が丁寧に育んだ国産大麻を原材料とすることを守り続けてきました。

これからも神祭具・仏具づくりを通じて、国産大麻の継承と発展の一助になることができればと考えています。

手仕事を受け継ぐ

山川では、すべての作業を手仕事でおこなっています。
一本一本の麻芯にしっかり撚りを入れ、それを丹念に撚り合わせていくことで強く丈夫な麻縄をつくります。

鈴緒は拝殿に吊して使うものですから、時間の経過とともに自重によって少しずつ伸びてしまうことは避けることができません。しかし、参拝者の方々が触れるにつれ、手に馴染み、丈夫でしなやかな縄に育つようにと工夫を凝らすことはできます。麻縄のわずかな撚り加減を手のひらで感じ取ることができる手仕事ならではです。

鈴緒や注連縄など麻製品の多くは、見た目さえ同じであれば機械で大量生産することも可能かもしれません。しかし、その本質までをもかたちにすることはできません。日々多くの方が手を合わせる神前や仏前で用いられる麻製品は、有職故実に則った技法を受け継いだ職人の手でかたちにすべきだと、山川は考えます。

私達のつくるものには、その仕事に携わった職人の名前が入ることはありません。

今日の技術に満足することなく、日々精進。

120年にわたって伝統的な技法と材料を守り、神様の仕事を手掛けてきた職人としての山川の矜持です。